2011年山形 湧き水の旅 〜トレジャーハンター☆ナス〜

John Everett Millais(ミレイ) (ちいさな美術館)

John Everett Millais(ミレイ) (ちいさな美術館)

柳や野バラの生い茂る小川に、口を開いて浮かぶ少女。水面には、色とりどりの小花がちりばめられている。19世紀イギリスの画家ミレイの『オフィーリア』だ。この傷ましくも可憐な絵に惹かれたのは、画面の手前に、梅花藻(バイカモ)が描かれていたからだ。梅花藻とは、清流にしか見られない水草で、初夏の頃に白い小さな花をたくさんつける。子どもの頃に植物図鑑で見つけて以来、いつか見てみたい憧れの水草として記憶に残っていた。

その梅花藻が、山形では普通に見られるという。あわてて山形五堰なるものの存在を知り、そのうちのひとつ、小白川を流れる笹堰で初めて見ることができた。流れの中にそよぐ青々とした草の上に、ちらちらと揺れる白い花。水の精かしら、と思えるほどに凛として美しい。市街地でこんなにきれいな水に恵まれるなんて。以来、山形の水が気になりだした。

当たり前のようにあちこちにある湧き水も興味の対象になった。山肌にしみこんだ雨水が、長い長い時間をかけて地下水脈を通ってろ過され、ある日湧き出てくる。山の養分をたっぷり吸収して、その味と匂いを宿した水。その、気の遠くなるような水の旅に神秘を感じずにはいられなかった。

ある有志が編した湧き水ガイドを手に入れると、休日のたびに目当ての湧き水を訪れた。有名なところならいざ知らず、忘れかけられ、枯れそうになっている湧き水もあって、探すのに苦労する。しかも、水の出るところは日照りや旱魃のときには貴重な水源として守られてきたはず。人にはできるだけ伝えず、ひっそりと守られてきたものもあったのだろう。トレジャーハンターよろしく野山を歩き回って水場を探し当て、そこに必ずといっていいほどまつられている水神様や龍神様に、いつしか手を合わせるようになっていた。 

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今回は、ナスが訪ねた湧き水スポットをいくつかご紹介したいと思う(すべて山形市内です)。先人に敬意を表してあえて詳しい案内としなかったが、皆さまが、運よくめぐり合えますように。

①羽竜沼出壷(はりゅうぬまでつぼ)       
西蔵王の野草園手前に「ふれ愛の森ロッキー」の看板がある。その農道を入って砂利の林道を抜けると羽竜沼に出る。沼の隅にある大きな栗の木のあたりから、野草園の方向におりる道があり、そこを下っていくと開けた広場に出る。樹齢百年以上の杉の根元から湧き出る水場は秘宝と呼ぶにふさわしい。今は少し看板などが整備されているが、数年前は案内が何もなく、勘だけをたよりに探し当てたときの感動は忘れがたい。

②神尾 桂清水(かんのう かつらすず)      
同じく西蔵王神尾地区。出壷の入り口より農道を進むと、プレハブ小屋があり、そこから右に折れて林道を進む。数百メートル進むとうっそうとした杉木立に入り、道路を横切る水の流れに目印の空き缶が置いてある。そこから林の中に入ってゆくと、桂の大木があり、その根元から湧き出している。ナスが訪ねたのは秋。桂の落葉の香りがする水にうっとりしてごくごく飲んだ。数時間後、激しい嘔吐と下痢、発熱に見舞われたのでご注意。ちなみに、目印の空き缶は、うそみたいだけどちゃんとありました。

③土坂 阿弥陀清水(つちざか あみだすず)   
西蔵王土坂地区。瀧山参拝の時に登山者が喉を潤したというが、今は水場のすぐ上を道路が横切り、風情がそがれている。いにしえの景色を想像しつつ瀧山をあおいだ。

④高原 深沢大聖不動明王(たかはら ふかざわたいせいふどうみょうおう) 
上山家地区の山形自動車道をくぐってしばらく併走する道路を行くと、左手に山へ向かう一本道に出る。薄暗い杉木立の山道を登った先に、社が現れる。あたり一体がしみ出た水で濡れており、しん、としてやや荒れた印象。一人でいると恐ろしかった。

⑤西山形 水方不動尊(にしやまがた みなかたふどうそん)       
大森山のふもと、すげさわの丘の脇の山道から入り、左手に曲がる。入り口に案内板があり、しばらく行くと鐘楼が現れる。不動明王をまつる社があり、豊富な水が流れている。山アジサイドクダミの花に囲まれた水場は、しばしのやすらぎを与えてくれる。

⑥風間ガード下 ドッコ水            
仙山線楯山駅の近く、山形山寺線沿いにある。立派な水車が回っており、すぐ隣にお地蔵様が移設された。地元の方の大切にしている気持ちが伝わる水場で、ナスの日常の飲料水としてよく利用させていただいている。

※ここに紹介した湧き水は、必ずしも安全の基準・検査を受けたものではありません。飲料その他の利用に関しては、各人のご判断におまかせします。ナスは全部飲んだけど、ほぼ大丈夫でしたが。

以上、今回は山形市に限定して紹介させていただいた。天童、尾花沢など、まだまだ興味深いスポットはたくさんあるが、またの機会にゆずりたいと思う。

プロフィール
古田 茄子(ふるた なす)
山形歴10年あまり。最上川の歴史研究、城山登り、湧き水深訪、そば屋めぐりなど、趣味は山形。植物の名前を覚えるのが得意。オーガニック料理や身体にやさしいお菓子作りにも精を出す。いつか青汁だけで生きていけるよう肉体改造して、仙人になりたいとの野望を秘めている。