山形県出身作家の作品を読む 長岡弘樹 『教場』

教場

教場

週刊文春ミステリーベスト10 2013年」で第1位、「このミステリーがすごい! 2014年版」で第2位に選ばれるという快挙を成し遂げた本書。さらに2014年第11回本屋大賞にノミネートされた。結果は6位と、大賞には届かなかったものの、全国の書店員が1年間の「いちばん売りたい」「読んで面白かった」本のベストテンに入ったのは、作家として大変名誉なことだと思うし、地元出身作家として誇らしい限りである。

投票した書店員の推薦コメントを読むと、「面白かった」「読後が爽快」といった内容の文章が多かった。また、連作短編形式なので読みやすいという意見も見られた。「警察学校」という、一般的にはあまり馴染みのない場所が舞台である本書。社会の安全を守るため、日夜事件や事故を解決する職業である警察官。だがその一方で、逆に事件をおこす人間がいるという「警察学校」とは一体どんな場所なのか…。一般社会で生活する我々が知り得ない内情が、読み進めていくうち、次第に明らかになっていく。そして全貌が見えた時に読者が目にする、驚愕の真実とは。

全6章からなる本作は、各章ごとに完結しているが、物語としてつながっているので最後まで読まなければ結末はわからない。教官と生徒、また、生徒同士の間で起こる不可思議な出来事。日常ではありえない、想像できないことがそこではおこり、そして犠牲者を次々と生み出す。勝者もいなければ敗者もいない。そこに残るのは神の顔をした「悪魔」の残像。それは誰なのか。

ミステリー小説なので、内容がバレそうな記述はしないでおく。後は実際に手に取って読んでいただきたい。 一度読んで結末がわかっていても、何度も繰り返し読んでしまう面白さの本書は、「警察小説」に新風を吹き込んだといっても過言ではない。読むたびに新たな発見があり、読書の醍醐味を味わうことが出来るのは、本好きにはたまらない喜びである。著者の最新作である『波形の声』(徳間書店)も短編小説なので、こちらも本書と合わせて読んでみてはいかがかと思う。特に、これまであまりミステリー小説を読んでこなかったという方に是非お勧めしたい。実は、私自身がそうであるから。

プロフィール
阿部恵(あべめぐみ)
1973年生まれ。天童市のお隣りの東根市神町在住。書店員。読書とコーヒーをこよなく愛する。