書評 『自然エネルギー市場』 尾崎万里奈

自然エネルギー市場―新しいエネルギー社会のすがた

自然エネルギー市場―新しいエネルギー社会のすがた

風力・太陽光・バイオマスなどの再生可能な自然エネルギーが、石油に代わり、世界の産業界を変えつつある。このグローバルな潮流を背景に、日本でも自然エネルギーが社会的に注目されるようになり、その市場化が始まっている。1990年代以降、世界的には急速に進んだ自然エネルギーの市場化が、これから日本でどのように進んでいくのか。そうした中で地域や市民はどのような役割を担っていくのか。本書は、具体的な事例を紹介しながら、その展望を明らかにしている。

NPO法人北海道グリーンファンド(以下HGF)」は、そうした地域主導の取り組みのひとつだ。持続可能な社会を目指し、市民の手によるエネルギーづくりを実践することを目的として設立されたNPOであり、グリーン電気料金制度による基金積立と、それらを利用した風力発電事業の運営を主な活動としている。HGFの取り組みによって、2001年から北海道浜頓別町で運転が開始された国内初の市民風車はまかぜちゃん」。その運営費は、毎月省エネによって節約した電気料金5%分を寄付してつくる「グリーンファンド」と市民からの出資によって賄われる。そこでは、年間約900世帯分の電力が発電され、電力会社の配電線を通して町民全体に供給されている。こうした市民風車は、持続可能なエネルギーづくりにとどまらず、地域社会の自律を促し、市民による出資のしくみをつくりだしており、地域主導の新しいエネルギー政策の可能性をも示している。

本書は、環境・エネルギー問題に関心のある読者のみならず、自然エネルギーの分野で新しいビジネスをしたい人、地域自治や市民活動に主眼を置く人にとっても学ぶところが多い。市民が直接選択できるエネルギーを増やし、エネルギーの分権化を目指す。そこから始まる新しい自治の姿は原子力自然エネルギーの一キロワットがそれぞれ違う価値をもつ、持続可能なエネルギー社会の姿と重なりあっている。

プロフィール
尾崎万里奈
神奈川の南の方で生まれ育つ。3年前に山形にやってくる。2011年4月からはたぶん神奈川在住(予定)。芸工大でアートと教育について学び、その後1年間ぷらっとほーむで若者UJIターン推進事業スタッフとして主にインタビュー調査のお仕事をする。書評を書いたりもする。好きな食べ物は麺類。ただいま絶賛節電中。